1ヶ月ほど前になるだろうか、僕の事務所に、公明新聞の記者からカーラ・ブレイに関する問い合わせの電話があった。「カーラ・ブレイについて、ぜひ文化欄で紹介をしたいのだが、評論的な文章でなく、カーラの人柄に触れるような文章を書いてもらえる人を探しているので、どなたかご存知だったら教えて欲しい」との事。それならば・・・という事で、長年彼女と仕事をしてきた僕が原稿を書かせてもらった。
 今回、このHPにおいても、その原稿の全文を紹介しようと思う。(新聞紙上には3月14日掲載)
「カーラ・ブレイと私」      鯉沼利成

 長く音楽の仕事に携わっている私は、今までに数えきれない程たくさんの音楽家と出会ってきました。カーラ・ブレイという音楽家は、その中で、何度も一緒に仕事をしたいなと私に思わせる音楽家のうちの一人です。
 彼女は一般的にジャズの音楽家として認識されていますが、私は彼女の事を、ジャンルにとらわれず、いつも新しく個性的な音楽を目指す音楽家として考えており、実際アルバムごとに全く違うアプローチの作品を作る稀有な音楽家なのです。以前私が企画制作していた「Tokyo Music Joy」という音楽祭に、彼女が二度も出演しているのも、この音楽祭のポリシーである、ジャンルや時代を超えた世界のよい音楽を紹介するという事と、彼女の音楽性とが共感し合えたからだと思っています。
 一緒に仕事をする事で見えてくる彼女は、非常に真面目で、そして愉快なところのある人です。初めて一緒に仕事をした84年には、コンサートの第一部が終わると、「曲のアレンジを手直ししたいので、休憩時間を30分に延長して欲しい」と言ってきました。自分が納得するまで決して妥協を許さないその音楽への姿勢に、非常に感心したのは言うまでもありません。また、3月25日にすみだトリフォニ―ホールで行うコンサートに関しては、リハーサルが大変なので、普段やりなれているイギリスのミュージシャンを一緒に呼んだらどうかという私の提案に、「日本で行うコンサートだから日本のミュージシャンと一緒にやりたい。そして、そのミュージシャン全員の名前を教えて欲しい。リハーサルの時にはちゃんと名前を呼んでコミュニケーションを取りたいから。」と言うのです。素晴らしい音楽というものは、音楽家同士のコミュニケーションから生まれるもので、決して譜面から生まれるものではないという事をきっちりと分かっている人なのだと、私は非常に嬉しく思いました。そしてさらに、彼女はそこに集まるお客さんとの間にも、より良い心の通じ合いを願って、あらかじめ曲の説明を書き送ってくれたのです。例えば、「コパトーン」という曲は、その譜面を見て説明するなら、通常は「6/4拍子のラテン的なコンガのリズムにのって終始します。G9thの重要なモティーフをベースが弾きだし、ピアノが引き継ぎます。次にチェロの半音下降のフレーズがあり、その後フルートが動きのある短いモティーフを吹きます。クラリネットの合いの手のあと、意味ありげなヴァイオリン・・・」といった感じになるのでしょうが、彼女流のユーモアでは、次の様な楽しいストーリーになるのです。「ストレスの溜まったチェロとその奥さんのヴァイオリンが、プエルトリコに休暇旅行へと出かけました。明るい日差しの下、リラックスしたチェロは綺麗なフルートと出会い、たちまち恋に落ちてしまいます。チェロだけでなく、お金持ちのビジネスマンのクラリネットまでもがフルートに夢中。それを見たヴァイオリンは、焼きもちを焼きますが、じっと我慢をしています。でも、最後になって後悔したチェロは家へ帰っていくのです。南国生活の雰囲気は、ピアノとベース、ドラムが表現しています。」
 彼女は自分の音楽について、自由な発想のもと作曲をしてこられたのはまともな音楽教育を受けてこなかったからだと言っています。これは亡き武満徹さんも同じような事を私に言っていました。その事こそが、独自の表現方法を持つ個性にあふれる魅力的な音楽の世界が生まれた理由でもあるのでしょう。人類が新世紀を迎える来年に、彼女とはまた何か新しいことをやろうという話になっています。彼女と一緒に仕事をする時、音楽を通して、常に新しい出会いと発見があります。そしてそれが、私にとって大きな喜びとなり、新たな発想を生み出す力となってきたのだと思っています。