10年余の時を経て、キースのソロが還って来る――――

今秋、東京でキース・ジャレットのソロ・ピアノ公演が12年ぶりに実現する。80年代半ば以降、キース自身がトリオの活動を中心としてきたこともあり、日本のファンにとってソロ・パフォーマンスは数年ごとにリリースされるヨーロッパ公演のライヴCDでしか体験することができなかった。『パリ・コンサート』パリ・オペラ座('88年 )〜『ウィーン・コンサート』ウイーン国立歌劇場('91年)〜『ラ・スカラ』ミラノ・スカラ座('95年)。アルバムが届く度に、私たちはキースのソロがより高い次元に昇華し続けていることを知り、そしてその「魂」に接する瞬間を待ちこがれてきた。

そして1999年9月、その思いがかなう時が、もうすぐやってくる。

それにしても、キース・ジャレットという一人の音楽家の存在感の大きさにはあらためて驚かされる。ソロ・レコーディングを行った3会場は、いずれもクラシックの殿堂であり、異なるジャンルのアーティストがそのステージに上がることはなかった。しかし、伝統と様式を重んじるヨーロッパ音楽界においても、キースだけは別格なのである。今秋の東京公演においても、クラシック路線を頑なに守り通してきたあの東京文化会館が、その扉を開く。まさしくキース・ジャレットは、現代音楽シーンにおいてジャンルに取り込まれることなくコンサート活動を行える唯一のアーティストなのかもしれな い。

奇跡の復活劇は、新たな伝説の始まりとなる――――

ここにもう一つ、記しておかなければならないことがある。いくつかのメディアでリポートされたのでご存じの方もいるだろうが、昨年11月に掲載されたNYタイムスのインタビューにおいて、キース自ら「慢性疲労症候群」によってここ2年余、演奏活動がままならなかったことを明らかにしている。かつてチェロの巨人パブロ・カザルスも同じ症状にかかり、何と9年の長きに渡って演奏できなかったという難病である。しかしキースの心は決して挫けることがなかった。何時か、またピアノと向かい合う時が来ることを彼は信じていたのだ。
今秋、キースは東京のステージにおいて不死鳥のように甦ろうとしている。そう、あのマイルスが81年に奇跡の復活を遂げたように。だからこそ、東京文化会館のステージにキースが現れたらスタンディング・オベイションで迎えてほしい。そこはまさしく、キース・ジャレットの新たな伝説が誕生する「祝祭空間」となるのだから―――。
(鯉沼ミュージック)