時代の風がインディーズから吹き始めている。

歌手綾戸智絵がデビューして一年が過ぎました。
 40才という年齢、女性ジャズ・ボーカリストという看板、名もないインディペンデント・レーベルからのデビュー、という図式は、音楽業界の一般的な見方からすれば大きなハンディを持ってのスタートだったと言えるでしょう。しかも、彼女の所属レコード会社イーストワークスエンタテインメントは、有料広告は一切うたず、音楽誌や批評家への過度のプロモーションも行わず、CMタイアップやテレビ局に奔走することもしませんでした。これはレコード会社が新人を売り出すときの定番マニュアルや既存の方法を一切無視したやり方です。
 綾戸智絵が希にみる才能の持ち主であることを確信していたかれらは、彼女のパフォーマンスを多くの人に体験してもらうことが最大の宣伝効果を生むことだと信じ、全国でのライブ活動を頻繁に行うことに力を注ぎました。作戦は見事に成功しました。綾戸智絵のCDは5万枚にならんとする売り上げを示し、今もっともチケットが買えないアーティストとささやかれ始めているのですから。
 いつの時代にも強烈な個性をもった音楽家が音楽に新しい息吹を吹き込み、時代そのものを活性化させてきました。マイルス・デイビス、アストル・ピアソラ、グレン・グールド、キース・ジャレット、パコ・デ・ルシア、かれらはジャンルや自分の築きあげたスタイルに捕らわれることとなく、常に新たな可能性を求め、音楽の幅を拡げてきました。当初は異端児扱いされ、異能の存在と語られた彼らこそが音楽の流れを変え、多くのファンに支持され、愛され続けているのです。
 昨年すい星のごとく登場した綾戸智絵は、今や日本のジャズ界に登場した新人ジャズ歌手などというレベルでは語りきれない大きな存在に成長しています。彼女の圧倒的なライブ・パフォーマンスを多くの方々に体験していただき、感動の輪が拡がることを願って、全国5都市6回公演、大ホールにおける初の綾戸智絵全国ツアーをプロモートした所存でございます。

鯉沼利成