アワダジン・プラットは既に3回来日を重ねており、新世代の個性派ピアニストとしての魅力と存在感を存分に披露してきた。18、9世紀の名作を核とするレパートリーで、プラットは自身の中に蓄積してきた作品への想いをその卓越したテクニックと変幻自在ともいうべき音色を駆使して再現、作曲家の創意の結晶というべき名作を自身の血とし肉とした説得力あふれる演奏で私たちを魅了してきたのである。
ドレッド・ヘア、カラフルなシャツにジーンズというカジュアルなステージ衣装、お尻が床にくっつきそうな低い演奏姿勢など、プラットは視覚的にもユニークで、それだけでも個性派とよびたくなる誘惑にかられる。しかも昨年はジャズ界の重鎮オーネット・コールマンの大作を指揮して、指揮者としての才能も披露するなど、彼の音楽活動は尽きることのない幅広さでその果実をふくらませつつある。
だが、忘れてならないのは、プラットの基本は古典的名作に対する限りない情熱と敬愛の心であり、彼の音楽性の核心もきわめてオーソドックスであるという点である。伝統と才能の集積で支えられてきたピアノ音楽の軌跡を仰ぎ見ながら、そこに新しい生命とエネルギーを吹き込み、自身の世界を打ち立てようとしている謙虚な表現者、それがプラットなのである。「音楽には確かにエンタテインメントとしての喜びがあります。それは否定しません。しかし名作はそれ以上のものであることを忘れてはならないのです。」と語り、日々、研鑽を重ねている真摯な音楽家なのである。
今回の公演プログラムはそんな彼のオーソドックスへの想いが結晶となっている。バッハ、ベートーヴェンにより構成される前半は音楽の聖域への巡礼の旅を思わせるし、協奏曲が弦楽アンサンブルのバックを得て行われる豪華さも特筆される。そして後半はリストの大作である。ほとんどピアノによるシンフォニーといいたい傑作をプラットがどう解釈し、熱い想いのほどを伝えてくれるのか興味は尽きない。
プラットの演奏から私たちがつかみ取るものは限りなく豊かで、新しく、それはピアノ音楽の未来すら照らし出すものと期待される。
諸石 幸生



多才なる若き音楽家の楽曲への姿勢
〜オーネット・コールマンとの
     共演時のエピソードより〜


アワダジン・プラットは既に3回来日しているが、1998年夏、「モーストリー・モーツアルト」東京公演終了後、ジャズの巨人オーネット・コールマンの幻の大作といわれる「スカイズ・オブ・アメリカ」を日本で初演するにあたり、前年オーネットがニューヨーク・フィルとこの大曲を演奏した際の指揮者、クルト・マズアに代わって、日本での指揮者としてのデビューを飾った。

オーネット・コールマンが1972年に完成させたこの曲は、ジャズの即興演奏とクラシックのオーケストレーションによる新しい潮流を創りだした衝撃的作品で、彼自身がアメリカ・インディアンと暮らした経験から、先住民族がアメリカの空のもとで自然と調和している姿に感動し「アメリカの空ぐらい激しい変化を見てきた空はない。

暗殺、政治闘争、ギャングの抗争、人種問題・・・いつになれば、かつてアメリカの空の恵みを満身に受けてきた先住民たちに思いをはせる日がくるのだろうか」というメッセージを込めて作曲された。

オーネットは、アワダジンを日本公演の際の指揮者として起用するにあたり、「彼は大変素晴らしい青年だ。二人でこの曲について何時間も熱心に話し合ったが、それ以外にも彼は少年時代から、私と私の音楽に大変興味を持っていた事が分かったので、私の音楽全体についても色々話し合う事が出来て、大変楽しかったですよ。 私のレコーディング・スタジオ、ハーモロディック・スタジオで働いているスタッフが、彼とピーポデイー音楽院の同級生で、ピアノ、ヴァイオリン、指揮の三部門で、トップの成績を修めた、学校始まって以来の優秀な奴だよという話を聞いていたので、大変優秀な青年だろうと期待もしています」と語ってくれた。

このジャズの巨人の静かな期待に対して、アワダジンは指揮者としての自分の考え方をこう語っている。「今までクラシックの曲は数多く指揮して来たが、今回、このオーネットの作品に対する私の姿勢は全く同じです。何故なら譜面から曲のエッセンスと作曲家の意図したメッセージを見抜いて、オーケストラのメンバーに、それを伝えて、それをまたメンバーから聴衆に伝えさせるという仕事は、クラシックもジャズも同じだからです。オーネットはクラシックとジャズといった、ふたつのラベルを張られた、ジャンルの混ぜ合わされた曲を作曲したのではありません。彼は、単に一つの曲を作曲したのです。これが音楽全般、また曲に対する私のアプローチの仕方です。楽曲のタイトルは、音楽史の研究家にとっては興味がある事かもしれませんが、聴き手にとっては、色々な形で感動させられれば、その音楽がどんな種類、クラシックなのかジャズなのかという事に気を使う必要はないと思います。」そして、1998年、大曲「アメリカの空」の完全版再演が、日本でついに再現した。たった一夜のこの演奏会が、成功した陰に、作品の核心をつかんで精彩に富むイメージを喚起させたプラットの存在があった。
野上 忠男